八重垣姫② ~ 本朝廿四考

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いまも昔もヒトの考えることって実はあんまり変わらない。
日本舞踊のストーリーを読み解いて、そこに登場するキャラクターたちの現代にも通じる想いを
お伝えしていきたいと思います。
もしかしたら、あなたの悩みを解決するヒントがみつかるかも…

今回は、八重垣姫が登場する演目「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)」ののお話です。

|成立

「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)」は、1766年1月に大坂竹本座で人形浄瑠璃として
初演されました。作者は、近松半二を中心とした、三好松洛、竹田因幡、竹田小出、八民平七、
竹本三郎兵衛ら6名です。その年の5月には歌舞伎に移され、大阪道頓堀中の三桝座で初演されています。
歌舞伎が圧倒的な人気だった時代に、人形浄瑠璃として創作されたこの作品は、観客の興味を惹くために
技巧を駆使し、とても複雑な構成になっています。上杉(長尾)家と武田家の確執を背景に、斉藤道三に
よる足利将軍暗殺、山本勘助の出仕、武田信玄の嫡子、勝頼と上杉謙信の息女、八重垣姫との恋を絡ませ、
さらに諏訪湖の白狐伝説や中国に伝わる「二十四孝」の説話を取り入れて描かれています。

|二十四考

タイトルの「本朝廿四孝」は、「中国の二十四孝になぞらえたわが国(日本)での親孝行の話」という
意味です。元になった中国の「二十四孝」は、儒教の教えから親孝行を推奨した中国で、後世の模範として
特に親孝行だった人物24名を取り上げた書物です。日本にも伝えられ、仏閣等の建築物に人物図などが
描かれたり、「御伽草子」に収録されたり、寺子屋の教材として使われたりもしていました。
ただ、その内容は理不尽に感じるものも多く、福沢諭吉も「學問のすゝめ」で批判しています。
「本朝廿四孝」で、春に旬を迎えるタケノコを真冬に食べたいという母親のために雪の中タケノコを掘る
という場面は中国の「二十四孝」に描かれた親孝行の話を意識しています。

メトロポリタン美術館所蔵 鈴木春信作「雪中に筍を掘る女 見立孟宗」
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/56789

|伝説

諏訪大社には大きく分けて2つ、諏訪湖を挟んで南側の上社(かみしゃ)と北側の下社(しもしゃ)があります。
諏訪湖は、冬に気温が下がると湖の全面が凍結し、-10℃以下の寒気が数日間続くと氷の厚さは10㎝以上
にもなります。そして、さらに昼夜の温度差で氷の膨張と収縮が繰り返されると、湖の南岸から北岸にかけて
轟音とともに氷が割れて、高さ30㎝~60㎝くらいの氷の山脈ができます。この神秘的な自然現象には
諏訪大社の上社の男神(建御名方神:たけみなかたのかみ)が下社の女神(八坂刀売神:やさかとめのかみ)に
会いに行った
というロマンティックな伝説が古くから言い伝えられています。この伝説から八重垣姫が
湖の氷の上を歩いて渡る、という幻想的なストーリーが考えられたと思われます。

|オマージュ

観る人の好みに合わせた作品を創作することは、興行としてお芝居をすることの大事な要素のひとつです。
日本の古典劇では、人気の高い文芸作品などがあるとすぐにそれを利用していました。つまり、それを脚色する
のではなく、古典を元にして新しいものを生み出すということを行っていました。難しい言葉でいうと
「換骨奪胎(かんこつだったい)」、今風に言うならば、少しニュアンスが違いますが、「インスパイア」や
「オマージュ」でしょうか。なかでも戦記文学は特に人気が高く、「本朝廿四孝」もそれにあたります。
脚色は、原作の意向に沿っているので大きな脱線は許されませんが、日本の古典劇は、その脱線した部分を
膨らませて作られていました。観ている人も原点となる作品をよく知っているので、それを元にしてどこまで
フィクションの部分が膨らまされたか、その出来栄えを楽しんでいました。
武田家の戦略や戦術が描かれた軍学書「甲陽軍鑑」はそもそも公刊の時点で多くの誤りが指摘されていましたが
多くの作品に利用されていました。「本朝廿四孝」も「甲陽軍鑑」や近松門左衛門の「信州川中島合戦」を
膨らませて創作された作品のひとつです。著作権の概念が曖昧だった当時は、これを「改作」と呼んで、
咎めるのではなく「うまく変えたな」と褒めていたのだそうです。
また、伝説は文献が乏しく不確かなものなので、古典劇作者の狙いどころで腕の見せどころでした。
現代では、小説や漫画などを実写化するときは、原作者の意志を離れて暴走するわけにはいきません。
むやみに改変などすることは決して許されないことなので、この時代はおおらか過ぎたのかもしれません。
とはいえ、原形がわからなくなってしまうくらいの脱線や拡大を繰り返し、その結果として多くの名作が
生まれたこともまた事実ではあるのです。

|最後に

いかがでしたか。前置きがだいぶ長くなりましたが、いよいよ次回「本朝廿四考」のあらすじ前編、
歌舞伎でもよく公演される「十種香(
じしゅこう)」までのお話です。

 

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