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いまも昔もヒトの考えることって実はあんまり変わらない。
日本舞踊のストーリーを読み解いて、そこに登場するキャラクターたちの
現代にも通じる想いをお伝えしていきたいと思います。
もしかしたら、あなたの悩みを解決するヒントがみつかるかも…
今回は、長唄新曲「たけくらべ」に登場する美登利のお話です。
|たけくらべ
「柳は緑、名も美登利……」ではじまる長唄新曲「たけくらべ」は、樋口一葉の名作「たけくらべ」の
主人公、美登利をイメージして作られました。物語前半に描かれている、美登利がまだ子供のころの
キラキラとした日々が表現されています。
作曲は、日本舞踊教室みやの母体となっている美柳流の指定曲、長唄「美柳舞」の唄と作曲を担当している
松島庄十郎です。
|背景
樋口一葉は21歳の頃、下谷区龍泉寺町(現在の台東区竜泉)に日用品や駄菓子を売る小さなお店を営んで
いました。龍泉寺町は、当時歓楽地だった吉原と隣り合う町で、遊郭相手に商売や内職をする人や
遣手婆(やりてばば)や妓夫(ぎゆう)など遊郭で働く人たちが暮らしていました。
一葉のお店は、あまり繁盛しておらず、生活はとても苦しかったといいます。とはいえ、この町で暮らす
人々の生活に触れたことが、後に「たけくらべ」を生み出す原動力となったことは間違いありません。
https://collections.mfa.org/objects/237604
ボストン美術館所蔵 歌川広重作「江戸名所 新吉原日本堤見帰柳」
|登場人物
「たけくらべ」は、吉原界隈に住む子供たちの夏祭りから秋の酉の市の頃までの物語です。
主人公の美登利は14歳。吉原で人気の遊女を姉にもち、将来は姉のように人気の遊女になると見越した
楼主に何不自由なく大切に育てられています。容姿もよく、姉からもおこずかいをもらっているので
気前もよくて、子供たちの間では女王様のような存在です。
美登利と同じ学校に通う信如は15歳。真面目な少年で、龍華寺の跡取り息子ですが、金銭に執着している
生臭坊主の父親を疎ましく思っています。
美登利の幼なじみの正太郎は13歳。高利貸しを営む祖母と暮らしていて、とても裕福です。喧嘩っ早くて
大人びた口調ですが、美登利のことを慕っています。
|あらすじ
この3人の子供を中心に、町内組の対立や喧嘩、そして周りの大人との関係を描きつつ物語は進み、
美登利と信如の初恋ともいえない切ない関係を描いています。
才色兼備の美登利と頭のよい信如は、なんとなくお互いを意識していましたが周りに冷やかされたことを
きっかけに、信如は美登利を避けるようになります。美登利は、そんな信如の態度に戸惑い、素直になれず、
勝気な性格も手伝って信如を嫌うような言動になってしまいます。そして、自身の恋心にさえ気付かない
うちに大人への階段をのぼっていきます。美登利は遊女に、信如は僧侶になる将来が決められていて、俗と聖の
見えない境界線が2人を永遠に隔てています。否応なしに進んでいく時の流れのなかで、大人になって変わって
いかざるを得ない子供たちの切なさや儚さが胸に響きます。
|最後に
「たけくらべ」は文語体で書かれていて、もしかしたら少し読みにくいかもしれません。また、吉原やお寺の
跡取りなど背景はあまり現実的でないかもしれません。でも、子供から大人になっていく、その瞬間(とき)が
描かれていて淡くて儚い想いがよみがえってきます。夏休みの宿題の読書感想文で無理に読まされたときよりも
美登利の言った「厭や厭や、大人に成るは厭やな事…」には大人になったいまのほうが共感できる気がします。
お芝居もそうですが、舞踊も役を演じることができます。怖いもの知らずでキラキラと輝いた日々を過ごして
いた美登利の子供時代を切り取った長唄新曲「たけくらべ」。表現してみたくなりませんか。
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