絵島③ ~ 「絵島生島事件」判決編

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いまも昔もヒトの考えることって実はあんまり変わらない。
日本舞踊のストーリーを読み解いて、そこに登場するキャラクターたちの現代にも通じる想いを
お伝えしていきたいと思います。
もしかしたら、あなたの悩みを解決するヒントがみつかるかも…

今回は前回お話した「絵島生島事件」の判決編です。門限にほんの少し遅れたことが思いもよらない
事態になってしまいます。

|取り調べ

現代では、防犯カメラや指紋採取など被疑者を特定する要素は数多くあります。また、取り調べにも、
1日8時間以内とか被疑者への直接的間接的暴力や不安にさせる言動の禁止など様々なルールがあります。
でも、この時代そういったルールは一切ありませんでした。一体どんな取り調べだったのでしょう。

|絵島

事件の3週間後、絵島は突如役人から呼び出しを受け、門限を破ったことを理由に大奥追放を申し渡されます。
そして、取り調べが始まるまでは謹慎しているよう命じられました。ところが、いよいよ取り調べが始まると、
追及されたのは門限破りではなく、人気役者の生島新五郎との不義密通でした。そして「うつつ責め」という
昼夜一睡もさせず夢うつつの状態を続けさせて自白させようとする拷問が始まります。絵島は、三日三晩眠ら
せてもらえずに問い詰められました。しかし、絵島は屈することはなく一貫して否認を貫き、生島との密通は
認めませんでした。3日間も眠らない朦朧とした意識の中でも貫き通した奥女中としてのプライドと強い意志を
感じます。

|生島新五郎

絵島が謹慎を命じられている間に、生島をはじめとした芝居見物後の宴に参加した歌舞伎役者たち事件関係者の
取り調べが行われました。このとき追及されたのも門限破りではなく、絵島と生島の密通についてでした。
この時代、歌舞伎役者の地位はそれほど高くはなかったので、生島たちへの取り調べには容赦ない拷問が行われ
ました。生島は、笞打(むちうち)や石抱きという拷問を受けました。笞打には、竹を2つに割って麻糸で補強
した箒尻(ほうきじり)という棒が使われました。出血すると砂で傷口を止血し、さらに打ち続けられました。
また、石抱きは、両手を後ろ手で縛り、三角形の材木が並べられた算盤板(そろばんいた)と呼ばれる台座に
正座させ、両腿の上に1枚約45kgの石を載せて左右に揺さぶるというもので、自白しなければ石はさらに増や
されて、だいたい4枚位まで積まれました。長く続けると生命の危険があるため、下半身が蒼白になってくると
一度中止されますが、もう立つことも歩くこともできなくなってしまうので担がれて牢屋に戻され、日をあけて
また行われました。これだけの苦痛を与えられれば、どんな罪でも例え無実の罪でも認めてしまいそうです。
そして、生島もとうとう絵島と情を通じていたと認めてしまします。

|判決

絵島は最後まで自身の疑惑について否認を貫き、罪状には不義密通は含まれませんでした。しかし、容疑がかけ
られたこと、生島が拷問の末に認めてしまった密通の世間へのインパクトは強く、この事件は注目を集めること
になります。

|絵島

この当時、密通は死罪とされていましたしたが、絵島自身が自白しなかったことに加え、大奥御年寄という
立場もあり、また月光院が老中たちへ懸命の説得を続けたため、絵島に下された判決は「遠流(おんる)」
でした。江戸から遠く離れた土地に送り、二度と江戸へは戻さない刑です。流罪の中でも最も重い、厳しい
処分でしたが、生島との密通という罪には問われませんでした。当初は「遠島」の判決でしたが、月光院の
嘆願で高遠藩(現在の長野県伊那市)に身柄を預ける処分に減刑されたといわれています。絵島は穏やかに
判決を受け入れましたが、月光院に一目会ってお詫びできなかったことが心残りだったと詠んでいます。
「浮世にはまた帰らめや武蔵野の月の光の影もはずかし」

|生島とその他の処遇

一方の生島新五郎は、三宅島への「遠島」になりました。三宅島は、江戸時代約260年間の間に1000人以上の
罪人が送られた流刑場でした。
また、山村座の座元は伊豆大島へ「遠島」、山村座は廃座になりました。
絵島の異母兄だった旗本の白井勝昌は、絵島への監督責任の連座(連帯責任)として武士の名誉が保たれる切腹
ではなく斬首となり、弟の豊島常慶は重追放で、家屋敷を含む全ての財産を没収され居住地や幕府の重要な
拠点、主要街道へ
立ち入ることを禁止されました。他にも大奥専属の医師や呉服商、材木商などが遠島や追放の
刑に処されました。奥女中などを含めると処分を受けた人数は1500人以上にものぼりました。

https://archive.library.metro.tokyo.lg.jp/da/detail?tilcod=0000000003-00226659
東京都立図書館 TOKYOアーカイブより 歌川広重作 木版画 大日本物産図会「伊豆の国椿の油取図」

|最後に

いかがでしたか。門限に遅れたことから始まった事件が思いもよらない方向に進んでしまい、数多くの罪人を
作り上げ、ついには死罪まで出してしまった。こんな展開になってしまうとは誰が想像できたでしょう。
ところが、この一連の出来事が全部事実だったとするにはあまりにも不審な点が多く、誰かの思惑があったの
ではないかと思わずにはいられません。次回は、事件の背景から真相を考察してみたいと思います。事件を
利用して裏で操っていたのは
一体誰だったのでしょう。いよいよ黒幕の登場です。

 

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