絵島④ ~ 「絵島生島事件」疑惑編

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いまも昔もヒトの考えることって実はあんまり変わらない。
日本舞踊のストーリーを読み解いて、そこに登場するキャラクターたちの現代にも通じる想いを
お伝えしていきたいと思います。
もしかしたら、あなたの悩みを解決するヒントがみつかるかも…

今回は、「絵島生島事件」の不可思議な点についてお話しようと思います。

|不審点

前回の、絵島③~「絵島生島事件」判決編では、門限に遅れたことが思いがけない展開になって
しまった判決についてお話しましたが、この「密通」という判決には何も確証のないにも関わらず、
男女の関係があったという噂がまるで真実のように定着してしまいました。絵島は自白していないし、
生島も拷問で無理やり自白させられた可能性が高いと思われます。真相がはっきりしないまま大奥の
最高権力者と人気
役者のスキャンダルだけが取りざたされて、さらに関係者たちが重い処分を受けた
ことで「密通」は事実だったと認定されてしまいました。
もしかして本当は冤罪だったのではないでしょうか。そう考えて見直してみるといくつかの不可解な
点がでてきます。

|芝居見物

代参の後に、絵島一行が行ったという芝居見物は、本来であれば代参が終わればすぐに帰城するべきもので、
厳密には寄り道は認められていません。ところが、大奥という閉鎖的な空間で、1年中ほぼ休みなく働いて
いる奥女中たちにとって、代参やその随行は数少ない貴重な外出の機会でした。代参のあとの芝居見物や
ショッピング、グルメといった行為は楽しみとして、内外から暗黙の了解を得ていました。日頃の勤勉さへの
ご褒美といったところでしょうか。そのため、芝居見物やその後の宴にしても、絵島一行は他の人が今まで
普通にやってきたことを何の罪の意識もなくやっただけだったと考えられます。

|門限破り

絵島一行が帰城した時刻は17:00頃とされています。大奥で働く奥女中たちの門限は16:00頃でしたので
1時間ほど過ぎていました。ただ、この日は将軍生母の月光院の名代として外出しているので、月光院と同じ
身分の門限18:00頃が適用されていたはずなので、門限には間に合っていたと思われます。

|当初の容疑

そして、最もおかしいのは、門限を破った当日はなんの騒ぎにもなっていなかったのに、20日も過ぎたあとに
問題視されたことです。しかも、追及された内容は、絵島本人の門限破りではなく随行した奥女中たちが門限の
16:00頃を過ぎていて、これが絵島の管理不行き届きにあたるという言い掛かりのようなものでした。
今でいう
別件逮捕のように思われます。

|疑惑

こうしてみると取り調べやそこに至った状況には不可思議な点が多くて、誰かが仕組んだのではないかと
考えてしまします。この事件は多くのドラマや小説、映画の題材になっていますが、冤罪だったことが
前提になっています。ただ、そのほとんどが、女性同士のいがみ合いが原因だったと描かれています。
まずはそれについて検証してみようと思います。

|大奥内での対立

「絵島生島事件」を題材にしたドラマや小説では、6代将軍徳川家宣の側室で、次期将軍の生母だった月光院を
疎ましく思っていた正室の天英院の策略だったとされていることが多いです。天英院は京の公家の出身で、
家宣とはいわゆる政略結婚でしたが、夫婦仲はよく2人の子供に恵まれています。ただ、2人の子供は幼くして
亡くなっています。世継ぎをつくるために家宣は、お喜世の方(月光院)を含め4人の側室をもうけます。
天英院は自分以外の女性と過ごす夫に対してどんな気持ちを抱いたのでしょう。
「ひとりの身 月見るものとならい来て さきはれぬ身をうらみだにせず」(ひとりで月を見るのもすっかり
慣れてしまいました。世継ぎのために側室をもつのは仕方のないことなので、それを恨むような気持ちはあり
ません。)と天英院は詠んでいます。側室をもつなんて現代ではとても考えられないことですが、当時は仕方の
ないことでした。それでも内心は決して穏やかではなかったはずですが、天英院はそれを表に出すこともなく、
穏やかで温厚な人だったといわれています。天英院と月光院の仲が悪かったとは思えませんが、お付きの奥女中
同士はもしかしたらいがみ合う場面もあったかもしれません。たとえそうだったとしても同じ奥女中のなかで
最上位の御年寄の絵島を陥れるほどの策略家はいなかったと思われます。

また、絵島が罰せられれば、奥女中にとって唯一の楽しみだった代参(外出の息抜き)が厳しく取り締まられる
ことにも繋がりかねません。こうした点からも、天英院と月光院の大奥内での対立が事件の原因だったとは
とても考えにくいのです。

|最後に

いかがでしたか。こうしてみると「絵島生島事件」はやっぱり冤罪の疑惑が捨てきれません。多くのドラマや
映画の脚本が冤罪を前提に描かれているのも納得できます。ただ、事件のきっかけが女性同士の争いになって
しまっていることについては少し不思議に思います。ストーリーがわかりやすくなるからでしょうか。天英院が
気の毒に思えてきます。では、事件を仕組んだのは一体だれだったのでしょう。
次回は、背景から考察した真の黒幕、ラスボスについてお話しようと思います。

 

 

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