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物語に登場する人物の着物姿ってみんな魅力的。
特に明治、大正から昭和初期の文学作品は描写がとても繊細で、
着物も帯も小物も…そのひとつひとつにこだわりを感じます。
時代や背景は変わっても着物の着こなしの参考になること間違いなし!
作品を通して着物への想いが深まりますように……
前回に引き続き、尾崎紅葉作「金色夜叉」のヒロイン、鴫沢宮のコーデです。
|再会
「金色夜叉」は、ストーリーの陰影とは対照的に、この当時のファッションの動向を伝えていて、
登場人物の生活環境が変わるとともに装いにも変化が現れるように描かれています。
ヒロインの鴫沢宮も前回お話したほかにも装いの描写がいくつかあります。
東京国立近代美術館所蔵 鏑木清方作 「苦楽」挿絵原画 名作絵物語「金色夜叉」
https://www.momat.go.jp/collection/j00830
|冷艶物の類ふべきなく
鬘(かつら)ならではと見ゆるまでに結做したる円髷(まるわげ)の漆の如きに、珊瑚の六分玉の後挿を
点じたれば、更に白襟の冷艷物の類ふべき無く、貴族鼠(きぞくねず)の縐高縮緬(しぼたかちりめん)
の五紋なる単衣を曳きて、帯は海松色(みるいろ)地に装束切摸(きれうつし)の色紙散(ちらし)の
七糸(しちん)を高く負ひたり。淡紅色(ときいろ)紋絽の長襦袢の裾は上履の歩に緩く匂零して、
絹足袋の雪に嫋々(たわわ)なる山茶花(さざんか)の開く心地す。
「金色夜叉」より
鴫沢宮は、大富豪の富山家へ嫁いだ後もかつての許婚だった間貫一を忘れられず、夫婦関係はうまくいって
いません。さらに、授かった子どもも亡くしてしまい精神的に追い詰められていきます。
そんなとき、夫の富山唯継が趣味の写真を通じて知り合った子爵邸に招待されます。図らずも、鴫沢宮は
そこで1番会いたくなかった(でも本当は1番会いたかった)闇落ちした間貫一に再会してしまいます。
その場面での鴫沢宮の装いです。
完璧に美しく結い上げられた髪はツヤツヤと輝き、そこに珊瑚の大きな真っ赤な髪飾りを挿していて、
その黒と赤の対比が襟の肌の白さが際立っています。着ているのは、当時のトレンドカラーともいえる
品のある貴族鼠(紫がかった上品で深みのあるグレー)の五紋単衣です。
生地は、通常よりもシボが高く織られていた縮緬で、光が当たると独特の美しい陰影が生まれます。
帯は、わずかに黄色味がかった深く渋いオリーブグリーンのキラキラとした豪華な浮模様を織り出した裂地で、
背中の高い位置でボリュームをもたせて結んでいます。
派手さはありませんが、生地の質感で圧倒的な富をみせつける、計算され尽くした引き算の美学コーディネート
です。さらに、歩くたびに着物の裾から淡いピンクの長襦袢がのぞき、雪の上にサザンカの花が咲くようだと
描写されています。
鏑木清方記念美術館所蔵 鏑木清方作 尾崎紅葉原著「金色夜叉絵巻」挿絵(第43図)
https://www.kamakura-arts.or.jp/kaburaki/collection/konjikiyasyaemaki.html
|実に塵をも怯れぬ
紋羽二重の小豆鹿子(あずきかのこ)の手絡したる円髷に、鼈甲脚(べっこうあし)の金七宝の玉の後簪を
斜に、高蒔絵(たかまきえ)の政子櫛を翳して、粧は実に塵をも怯れぬべき人…
「金色夜叉」より
鴫沢宮が乗っていた人力車が、夜道で酒に酔っていた荒尾譲介と激しくぶつかり、怪我をさせてしまった場面
での鴫沢宮の出で立ちです。
明治時代、結婚した既婚女性が結う代表的な髪型の丸髷で、手絡(髪に巻き付ける飾り布)には、紋羽二重に
小豆色の絞り染めが施された贅沢なものを使っています。べっ甲足に、きらびやかな金七宝の玉がついた
かんざしを後ろ髪に斜めに差し、高蒔絵が施された政子櫛を差し込んでいます。
その姿は「チリやホコリが付くことさえ恐れ多くてためらうほど美しく気高い」と描写されています。
鏑木清方記念美術館所蔵 鏑木清方作 尾崎紅葉原著「金色夜叉絵巻」木版口絵
https://www.kamakura-arts.or.jp/kaburaki/collection/konjikiyasya.html
|最後に
いかがでしたか。鴫沢宮は、物語が進むにつれて、豪華な装いや外見の美しさと対比するように精神的に
病んでいきます。その外見と内面のギャップも見どころのひとつです。
また、鴫沢宮以外にも歌留多会に参加していている令嬢たち、女高利貸しの赤樫満枝、間貫一、大富豪の
富山唯継の装いも細かく描写されているので、当時流行していたファッションを思い浮かべながら読むのも
面白いかもしれません。
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