外郎売③ ~ 江戸版早口ことば

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いまも昔もヒトの考えることって実はあんまり変わらない。
日本舞踊のストーリーを読み解いて、そこに登場するキャラクターたちの現代にも通じる想いを
お伝えしていきたいと思います。
もしかしたら、あなたの悩みを解決するヒントがみつかるかも…

「外郎売」の口上は、俳優やタレント、アナウンサーや声優の発声練習に現在も使われています。
コツは口と舌の活動域を広くするために大きく口を開けて、意味を考えながら言うこととか。
全文を載せてみましたので是非お試しください。

|第1段落

拙者(せっしゃ)親方と申すは、御立会の中(うち)に、御存じのお方もござりましょうが、
お江戸を発って、二十里上方(かみがた)、相州(そうしゅう)小田原、一色町(いっしきまち)を、
お過ぎなされて、青物町(あおものちょう)を、登りへおいでなさるれば、欄干橋虎屋藤右衛門
(らんかんばし とらや とううえもん)、只今は剃髪いたして、圓齋(えんさい)と名乗りまする。

元朝(がんちょう)より大晦日(おおつごもり)まで、お手に入れまする此の薬は、昔ちんの国の
唐人、外郎(ういろう)という人、わが朝(ちょう)に来り(きたり)、帝(みかど)へ参内の折りから、
此の薬を深く籠め置き(こめおき)、用ゆる時は一粒(りゅう)づつ冠(かんむり)の透間(すきま)より
取り出だす(いだす)。依って、其の名を帝より「透頂香(とうちんこう)」と給はる(たまわる)。

即ち文字(もんじ)は、透き(すき)、頂く(いただく)、香い(におい)と書いて、「とうちんこう」と
申す。只今は、此の薬、殊の外世上(せじょう)に弘まり、方々(ほうぼう)に偽看板(にせかんばん)を
出(い)だし、イヤ
、小田原の、灰俵(はいだわら)の、さん俵(だわら)の、炭俵(すみだわら)のと、
色々に申せども、平仮名をもって、「ういろう」と致せしは親方圓齋ばかり。

もしや、お立会いの中(うち)に熱海か塔ノ沢へ湯治(とうじ)にお出でなさるるか、又伊勢御参宮
(いせごさんぐう)の折からは、必ず門違いなされまするな。お上りならば右の方(かた)、お下りならば
左側、八方(はっぽう)が八つ棟(やつむね)表が三つ棟(みつむね)、玉堂造(ぎょくどうづくり
)、破風
(はふ)には、菊に桐の董(とう)の御紋を御赦免あって、系図正しき薬でござる。

|第2段落

イヤ最前より家名の自慢ばかり申しても、御存じない方には、正身(しょうしん)の胡椒の丸呑(まるのみ)、
白川夜船。さらば一粒(いちりゅう)食べかけて、その気味合(きみあい)をお目にかけましょう。

先ず此の薬を、かように一粒(いちりゅう)、舌の上にのせまして、腹内(ふくない)へ納めますると、
イヤどうも云えぬは、胃、心(しん)、肺、肝(かん)が、健やかになりて、薫風(くんぷう)
喉(のんど)より来り、口中(こうちゅう)微涼(びりょう)を生ずるが如し。

魚鳥(うおとり)、木の子(きのこ)、麺類の食合わせ(くいあわせ)、其の外、万病即効あること神の如し。
さて、此の薬、第一の奇妙には、舌の廻ることが、銭独楽(ぜにごま)が、裸足で逃る。
ひょっと舌が廻り出すと矢も楯もたまらぬじゃ。

|第3段落

そりゃそりゃ、そらそりゃ。廻って来たわ、廻って来るわ、あわや咽喉(のんど)、さたらな舌(ぜつ)に
かげさ歯音(しおん)。はまの二つは唇の軽量(けいちょう)、開合(かいごう)爽やかに、
あかさたなはまやらわ、おこそとのほもよろを。

一つへぎへぎに、へぎほしはじかみ。盆豆、盆米、盆牛蒡、摘蓼(つみたで)、摘豆、摘山椒。
書写山(しょしゃざん)の社僧正(しゃそうじょう)。
こごめの生噛(なまがみ)、子米(こごめ)の生噛、こん子米(こごめ)の小生噛。
繻子緋繻子(しゅすひじゅす)、繻子繻珍(しゅすしゅちん)。

親も嘉兵衛(かへえ)、子も嘉兵衛、親嘉兵衛子嘉兵衛、子嘉兵衛親嘉兵衛。
古栗の木の古切口。雨合羽か番合羽か。貴様の脚絆(きゃはん)も皮脚絆、我等が脚絆も皮脚絆。
尻皮袴(しっかわばかま)のしっぽころびを、三針(みはり)針長(はりなが)にちょと縫うて、
縫うてちょとぶん出せ。

河原撫子(かわらなでしこ)、野石竹(のぜきちく)、野良如来(のらにょらい)、野良如来、
三野良如来に、六野良如来。一寸先(ちょとさき)のお小仏に、お蹴躓(けつまづ)きゃるな。
細溝に泥鰌(どじょ)にょろり。京の生鱈(なまだら)、奈良生学鰹(なままながつお)、ちょと四、五貫目。
お茶立ちょ、茶立ちょ、ちゃっと立ちょ、茶立ちょ。
青竹茶筅(あおだけちゃせん)でお茶ちゃっと立ちゃ。

|第4段落

来るわ来るわ何が来る、高野の山のおこけら小僧。狸百匹、箸百膳、天目百杯、棒八百本。
武具馬具(ぶぐばぐ)、ぶぐ、ばぐ、三武具馬具、合わせて武具馬具、六武具馬具。
菊栗、きく、くり、三菊栗、合わせて菊栗、六菊栗。
麦、ごみ、むぎ、ごみ、三麦ごみ、合わせて麦、ごみ、六麦ごみ。

あの長押(なげし)の長薙刀(ながなぎなた)は、誰(た)が長薙刀ぞ。
向こうの胡麻殻は荏(え)の胡麻殻か、真胡麻殻か、あれこそ本の真胡麻殻。がらぴい、がらぴい、風車。
おきゃがれ小法師(こぼし)、おきやがれ小法師(こぼうし)、昨夜(ゆんべ)もこぼして、又こぼした。

たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、ちりから、ちりから、つったっぽ。たっぽたっぽ、干だこ(ひいだこ)、落ちたら
煮て食お。煮ても焼いても食われぬものは、五徳、鉄弓(てっきゅう)、金熊童子(かなくまどうじ)に、
石熊、石持(いしもち)、虎熊、虎鱚(とらぎす)。
中にも東寺の羅生門には、茨木童子(いばらきどうじ)が、うで栗五合(ごんごう)掴んでおむしゃる。
の頼光(らいこう)の膝元去らず。

|第5段落

鮒きんかん、椎茸、定めてごたんな、蕎麦切り、素麺、饂飩か、愚鈍な小新発地(こしんぼち)。
小棚の、小下の、小桶に、小味噌が、こ有るぞ、小杓子こもって、こすくって、こよこせ。

おっと合点(がてん)だ、心得たんぼの川崎、神奈川、程ヶ谷(ほどがや)、戸塚は、走って行けば、
灸(やいと)を摺りむく、三里ばかりか、藤沢、平塚、大磯がしや、小磯の宿(しゅく)を七ツ起きして、
早天早々(そうてんそうそう)、相州小田原透頂香(そうしゅう おだわら とうちんこう)。

隠れござらぬ、貴賎群集(きせんぐんじゅ)の花のお江戸の花ういろう。あれあの花を見て、お心を
お和らぎやという。産子(うぶこ)、這子(はうこ)に至るまで、この外郎の御評判、御存じないとは
申されまいまいつぶり、角(つの)出せ、棒出せ、ぼうぼう眉に、臼、杵、擂鉢(すりばち)。

ばちばちぐゎらぐゎらぐゎらと、羽目を外して今日(こんにち)御出で(おいで)の、いずれも様に、
上げねばならぬ、売らねばならぬと、息せい引っ張り、東方世界(とうほうせかい)の薬の元締め、
薬師如来も上覧(しょうらん)あれと、ホホ敬って、ういろうは、いらっしゃりませぬか。

|最後に

いかがでしたか。最初は上手く言えなくても、繰り返しているうちにだんだん言えるようになってきて、
攻略できたときの達成感はたまりません!!
滑舌よく話す練習にもなるので、大事な面接やプレゼンの前に言ってみるといいかもしれません。
「外郎売」は大ヒットした狂言なので、ご利益にあやかれるかもしれません。

 

 

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