絵島⑤ ~ 「絵島生島事件」考察編

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いまも昔もヒトの考えることって実はあんまり変わらない。
日本舞踊のストーリーを読み解いて、そこに登場するキャラクターたちの現代にも通じる想いを
お伝えしていきたいと思います。
もしかしたら、あなたの悩みを解決するヒントがみつかるかも…

今回は、「絵島生島事件」の背景から考察される真相についてお話しようと思います。

|背景

前回の絵島⑤~「絵島生島事件」考察編では、大奥内の女性同士の対立を背景に、多くのドラマや映画で
黒幕とされている6代将軍徳川家宣の正室
天英院のことをお話しましたが、真の黒幕ではなさそうでした。
では、本当の黒幕は誰だったのでしょう。

|もうひとつのスキャンダル

ちょうど事件と同じ頃、江戸城内で広まっていた噂があります。7代将軍徳川家継の側近だった間部詮房
月光院と密通しているというスキャンダルです。間部は、6代将軍徳川家宣の腹心として幕府を主導していて、
月光院が
産んだ家継が7代将軍になった後も引き続き側近として仕えました。このとき、家継はまだ幼少で
大奥で生活していたため、例外的に間部には大奥の出入りが認められていて、頻繁に出入りしていました。
正室も側室ももたない男盛りの間部と出家したとはいえまだ30歳にもならない若さと美貌をもつ月光院が
頻繁に顔を合わせていれば何かあるのではないかというものでした。

|幕府の政権争い

幕府では、5代将軍徳川綱吉から甲府藩出身の将軍が続いていました。そのため、将軍の側近や大奥には
甲府藩出身の者が多くなっていました。そして、6代将軍徳川家宣が亡くなり、7代将軍徳川家継になっても、
大奥では月光院や絵島が、幕政では間部詮房や新井白石が実権を握り、甲府藩による主導が続いていたため、
幕府内の旧勢力からは反感が強まっていました。そんなとき、未亡人だった月光院と間部が禁じられた関係に
なっていれば、それをネタに甲府藩出身の重臣を一掃できるかもしれません。何とかして間部たちを引きずり
おろすきっかけはないかと考えていた旧幕府勢力の網にかかったのが絵島一行の門限破りでした。前将軍の
側室で、現将軍の生母の月光院に間部との疑惑を直接ぶつけることはできませんが、絵島なら攻め立てれば
自白させられるかもしれない。月光院が最も信頼している御年寄の絵島が、間部と月光院の密通を自白すれば、
もしくは自白でなくても嘘の証言でも引き出せることができれば、甲府藩勢力を一掃できるのではないか。
そのついでに年々豪華になっている大奥の引き締めもできれば一石二鳥というのが旧幕府勢力が描いたシナリオ
だったのではと考えられます。

当時幕政のトップにいたのは、大老の井伊直興、老中の土屋政直、秋元喬知、井上正岑、阿部正喬、久世重之
でした。絵島生島事件の取り調べを統括していたのは老中の秋元です。ただ、秋元は月番としてたまたま担当
していただけで、実際は間部と親しい間柄の人物でした。結審の後、秋元はよほどの心労だったのか体調を
崩し、同年8月に急死してしまいます。また、大老の井伊は、取り調べがまだ続いている時期に辞職して隠居、
老中の阿部、久世も間部の政策に賛同する側だったので関与していないと思われます。今となっては断定は
できないものの、残る老中の土屋、井上を中心とした反間部勢力によるとても巧妙な陰謀だった可能性が濃厚と
考えられます。土屋は4代将軍徳川家綱の頃から老中を務める重鎮で間部のような側近の政治主導に対しては
懐疑的な立場でした。また井上は間部、新井両者とも日ごろから険悪な関係だったらしく、その様子が新井の
残した記録にも残っています。
当時江戸では、忠臣蔵を題材にした歌舞伎が大流行していて、芝居小屋の興行はしだいにエスカレートし、
江戸の風紀が乱れる原因になっていました。これを正したいと思っていた江戸町奉行らと、間部の権威失墜を
目論んでいた土屋、井上らが結託して一連の騒動を画策したのではないかと考えられます。

実際、事件の後、月光院、間部、新井の権勢は衰えます。また、山村座は廃座となり、他の芝居小屋も建物を
粗末な造りに変え、興行の時間も短縮させられています。

https://museumcollection.tokyo/works/6255676
東京江戸博物館所蔵 水野年方作 錦絵「教導立志基 新井白石」

|最後に

いかがでしたか。色々な思惑が入り交じる中、何かのタイミングで目的が一緒の者同士が結託して想像を遥かに
超えた大きな力になってしまいました。知らない間に巻き込まれてしまった絵島や生島、その他多くの罪人に
されてしまった者たちにとっては、運が悪かったでは済まされない、到底納得できるものではないと思います。
そんな運命の渦に巻き込まれた事件関係者たちはどうなっていったのでしょう。
次回は「絵島生島事件」のその後についてお話しようと思います。

 

 

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