紅皿① ~ 紅皿缺皿

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いまも昔もヒトの考えることって実はあんまり変わらない。
日本舞踊のストーリーを読み解いて、そこに登場するキャラクターたちの現代にも通じる想いを
お伝えしていきたいと思います。
もしかしたら、あなたの悩みを解決するヒントがみつかるかも…

今回は、日本版シンデレラ、紅皿(べにざら)と缺皿(かけざら)のお話です。

|魁駒松梅桜曙微

大和楽は、日本古来の三味線の旋律に西洋音楽の輪唱やハーモニーなどの演奏法を採り入れた邦楽で、
雅やかな楽曲が多く、日本舞踊でも人気があります。その大和楽に「紅皿缺皿」という曲がありました。
今では曲名のみしか残っておらず、どんな曲かはわかりませんが、おそらく江戸時代後期の歌舞伎狂言
「魁駒松梅桜曙微(いちばんのりめいきのさしもの)」をモチーフにしていると思われます。

|皿皿郷談(べいべいきょうだん)

「南総里見八犬伝」などの作者として有名な曲亭馬琴(きょくてい ばきん)は、大河ドラマ「べらぼう」で
話題の蔦屋重三郎に才能を見出され、手代として働いていました。曲亭馬琴という名前
は、読本執筆の際の
ペンネームで、本名は滝沢興邦(たきざわ おきくに)といいましたが、どういうわけか明治時代半ば頃から
本名とペンネームを合わせた名前で呼ばれるようになり、現在では滝沢馬琴という名前のほうが知られている
かもしれません。江戸時代後期、その曲亭馬琴が、読本「皿皿郷談」を書きます。挿絵は当時タッグを組んで
読本を刊行していた葛飾北斎です。

そして、「皿皿郷談」の後半に描かれているのが、シンデレラのお話によく似た「紅皿缺皿」のお話です。

東京国立博物館所蔵 曲亭馬琴、葛飾北斎(画)作「皿皿郷談」
https://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/C0064549

|魁駒松梅桜曙微

河竹黙阿弥は、読本「皿皿郷談」を脚色して「魁駒松梅桜曙微」を創作します。初演は、1865年3月守田座、
主人公の缺皿こと楓姫(かえでひめ)を世澤村田之助が演じています。当時、美貌と実力で江戸歌舞伎界を
代表する女形として活躍していた三世澤村田之助に当てて書かれたと言われています。
その後、「魁駒松梅桜曙微」は「月缺皿恋路宵闇(つきのかけざらこいじのよいやみ)」
という外題で定着
していきます。

文化デジタルライブラリーより 二代目歌川国貞作 「魁駒松梅桜曙微」
https://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/collections/view_detail_nishikie?division=collections&class=nishikie&type=title&istart=30&iselect=%E3%81%84&trace=detail&did=1125788

|月缺皿恋路宵闇

継子いじめのお話に仇討ちと超人的な要素も加えた「月缺皿恋路宵闇(つきのかけざらこいじのよいやみ)」は
どんなお話だったのでしょうか。

|あらすじ

主人公の楓姫は、継母の片もひの連れ子、紅皿に対して缺皿と呼ばれ、日頃から理不尽に虐められています。
ある日、恋人との逢瀬を嫉妬され折檻された缺皿が土蔵に閉じ込められているところに、片もひの前夫の息子、
須之助が
やって、中に缺皿がいるとは知らずに話を始めます。実は、須之助は、お家の重宝を奪ったうえ、
詮議していた缺皿の父親を殺していたのでした。これまでどんなに虐められても従順にしていた缺皿でしたが、
話を聞いて
激怒します。復讐を誓い神力を得た缺皿は、術をつかって不死身になっていた須之助を討ち、重宝を
取り戻し、恋も成就させます。

|見せ場

この作品の見せ場は、継母による缺皿への惨忍な責め場でした。高く縛り上げられた缺皿が、割竹で打たれ、
針の束で刺され、蛇責めにあう場面が観客の涙を誘いました。古来より、歌舞伎では責め場は重要な局面と
されていましたが、時代が進む
につれてより直接的な演出になり、その惨忍度はエスカレートしていきました。

|最後に

いかがでしたか。
日本版シンデレラといわれている「紅皿缺皿」のお話もハッピーエンドですが、そこに至るまでの継子いじめは
私たちが知っている、いわゆる「シンデレラ」のお話よりも残酷だったような気がします。この落差が観客の
テンションの上げ幅を大きくしてラストの感動につながっていくのですが、これが予期せぬ事故を引き起こして
しまいます。
次回は、「月缺皿恋路宵闇」の舞台で起きた事故のお話です。

 

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